2017年5月9日火曜日

つがいの蝶は?


つがいの蝶は?(58日)

 出光美術館の昼食会で、理事の福岡正夫さんから蝶々コレクションついてお話をうかがう機会がありました。福岡さんは経済学を専攻する慶応大学の名誉教授ですが、蝶々とクラシック音楽というエレガントなご趣味をお持ちです。「蝶々は小学校から、クラシック音楽は中学校からだけれど、経済学は大学に入ってから始めたにすぎない」と自負されています!? 

以前、小泉信三記念講座でお話になったベイツ型擬態と頻度依存淘汰説に関する講演録を頂戴し、あまりにおもしろいので、秋田県立近代美術館のHPブログ「おしゃべり名誉館長」に早速取り上げさせてもらったことがあります。

今日のお話はミドリシジミ――英語でいうとゼフィルスという蝶々のグループに関するものでした。日本にはこの種がキリシマミドリシジミ以下24種いるのですが、福岡さんは24種全部をお持ちなのです!! もちろんこれだけ集めるのには、ものすごい苦労がつきまといます。

たとえばキリシマミドリの屋久島亜種を採るためには、屋久島まで出掛けなければなりません。きれいな標本を作るために、飛んでいる成虫を採取するよりも、卵を見つけて孵化させ、成虫まで育ててそれを標本にする方が望ましいそうですが、出掛ければ必ず卵が見つかるというわけでもありません。

ようやく見つけて東京まで持ち帰っても、冷蔵庫に入れて、孵化の時期を調節しなければなりません。なぜなら、幼虫が食べる食樹は決まっており、たとえばキリシマミドリシジミですとアカガシで、それ以外はいっさい食べないからです。言うまでもなく、芽が出る時期は屋久島より東京の方が遅いので、それまで孵化を遅らせなければならないのです。

あるいは、ムモンアカシジミのように、クヌギの葉だけではダメで、それにくっつくアブラムシも一緒にやらないと育たないという面倒な種もあるし、ヒサマツミドリのように、木の一番てっぺんにしか卵を産まないという変なヤツもいるそうです。ともかくも、蝶々のコレクションを作り上げるには、想像を絶する苦労がつきまとうということがよく分かりました。しかし失礼ながら、なぜそれだけ苦労されるのかについては、よく分かりませんでした!?

 先日「五山文学の春」で絶海中津の「春夢」を紹介し、蝶々はよく2匹でじゃれあうように飛んでいるけれども、これは当然オスメスのつがいにちがいないと書きました。その点を福岡さんに確認してみました。2匹で飛んでいるのを網で一緒に捕らえると――文字通り一網打尽にすると、もちろんほとんどがオスメスですが、たまにオス同士という場合があるそうです。それはともかく、やはり僕にとっては、キリシマミドリより、クロキリシマの方が何倍も魅力的なのですが……。

 5月22日、また福岡さんにお会いする機会があり、さらにいろいろとお話をうかがい、蝶々の世界は美術の世界に増して奥が深いことを知りました! これを加えて、若干の加筆訂正を加えることができました!! 福岡さん ありがとうございました!!!

 *この「饒舌館長」において、お元気な方はすべて親しみを込めつつ「さん」づけでお呼びし、鬼籍に入られた方のみ「先生」とすることにしております。というわけですので、福岡さん、お許しください!!!!
 

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