2017年10月2日月曜日

東京国立博物館「フランス人間国宝展」4


じっと見ていたジレルさんの目から、突然涙があふれ始めました。やがて顔をくしゃくしゃにしながら、「40年間夢に見てきた曜変天目に今こうして……」とつぶやくようにおっしゃり、奥様の差し出したハンケチで何度も何度も涙を拭われました。周りにいた人たちはみんな、ジーンと来てしまいました。もちろん僕も……。

それは単なる特別観覧などというものではありませんでした。ジレルさんが空から舞い降りてくる女神と邂逅し、啓示を得るというおごそかな瞬間でした。その瞬間に立ち会うという僥倖に、僕たちは恵まれたのです。そのあと、ジレルさんのお話を聞きました。

ジレルさんは自邸の庭の土と近くで入手できる木や草だけを使って、ジレル天目を焼成しているそうで、中国まで出かけて材料を求めようとは思わないとのことでした。何と素晴らしいことでしょう。やはりジレルさんはあくまでフランスのアーティストであって、曜変天目復元家じゃないんです。

またジレルさんは、曜変天目を意図的に作り出したものである、つまり単なる窯変ではないとお考えのようでした。僕のいう「日本限定現象」とも関係する興味深い点なので、もう少し詳しくお聞きしたいと思いましたが、その時間はありませんでした。

0 件のコメント:

コメントを投稿

渡辺浩『日本思想史と現在』8

  渡辺浩さんの『日本思想史と現在』というタイトルはチョッと取つきにくいかもしれませんが、読み始めればそんなことはありません。先にあげた「国号考」の目から鱗、「 John Mountpaddy 先生はどこに」のユーモア、丸山真男先生のギョッとするような言葉「学問は野暮なものです」...