2017年11月17日金曜日

静嘉堂文庫美術館「あこがれの明清絵画」8


08懐月堂安度筆「美人愛猫図」(『國華』拙稿下書き)

改めて「美人愛猫図」を見てみよう。濡れ縁に出た遊女が一人、右手で振袖の褄を取り、左手に白い手拭いを摘まみながら、庭を眺めている。振袖は紅地の疋田絞り、肩裾は避けて一部を素絹のままとし、全体に藍と緑の大きな花菱文を散してある。前結びの帯と振袖の裏地は白群、複雑な帯と単純な裏地の対比が目につく。

美人のフォルムは、先に挙げたような代表作と通い合うけれども、溢れるようなエネルギーは洗練を加えられて、静謐にして優美なる美人へと大きく変化している。美人も年を経て、少し臈たけた印象を与えるようである。

環境描写に目を移すと、美人が立つ濡れ縁と背後の柱や屋根、さらにその奥に植えられた柳や手前の叢までが、しっかりと描き込まれている。それだけではない。美人の足元には、その手拭いに飛びつかんとする猫がとらえられている。しかも細かい毛描きまで加えられているのだ。

言うもでもなく、『源氏物語』は「若菜」上、女三の宮の見立てである。ある春の夕方、光源氏六条院邸の前庭で夕霧らと蹴鞠に興じていた柏木は、偶然邸内から飛び出した猫の紐によって捲れ上がった御簾の向こうに、光源氏の妻女三の宮の姿を垣間見てしまう。高貴で愛らしい女三の宮に、柏木は恋心を募らせるが、もちろんすぐに思いを遂げることなどできない。

「何ともしがたい恋しく苦しい心の慰めに、大将(柏木)は猫を招き寄せて、抱き上げるとこの猫にはよい薫物の香が染んでいて、かわいい声で鳴くのにもなんとなく見た人に似た感じはするというのも多情多感というものであろう」(与謝野晶子訳)というのも、何となくおかしい。

それはともかく、美人が摘まむ手拭いの重なり具合を勘案して、薄い藍の文字を「柏」と読めば、単なる見立てを超えて、『源氏物語』との距離はきわめて近いものとなる。

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