2018年2月6日火曜日

『逝きし世の面影』のネコ2


 アンベールは言う。日本の「猫は鼠を取るのはごく下手だが、ごく怠け者のくせに人に甘えるだけは達者である」。そしてリュードルフによれば、日本の「可愛らしい猫」が鼠を全然捕えないのは、「婦人たちの愛玩物」であって「大事にされすぎて」いるからなのだ。そして鼠といえば、中勘助を育てた例の伯母さんの家運が傾いたのも、ひとつには、白鼠を大黒様のお使いだといって「お福様、お福様と後生大事に育て」た結果、鼠算でふえたそいつらに「米櫃の米を食い倒され」たからだった。

只野真葛は『赤蝦夷風説考』の著者として知られる工藤平助の長女であるが、彼女の書きのこした『むかしばなし』には化物・妖怪のたぐいがしきりに登場する。むろん彼女はその実在を信じていたのである。人を化かすのは狐狸ばかりではない。猫もまた化かすのである。仙台藩が袖ヶ崎に江戸藩邸を構えたとき、長屋に石が打ちこまれたり、蚊帳の釣手が落ちたり、妖異が絶えなかったが、長屋の廂に昼寝している大猫の姿が小面憎いというので、ある人が鉄砲で仕留めたところ、その後異変ははたとやんだと彼女は書いている。


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渡辺浩『日本思想史と現在』7

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